#5325 【映画】帰ってきたヒトラー@日記 (2019/03/30)


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何ですかね。これ、評価が高かったので見てみましたが、その通り面白かったです。
これは、基本コメディーですかね。
だけれども、現代のドイツの問題を浮き彫りにしてます。

まあ、見てて思ったのは、映画の中でも言ってますが、
ヒトラーが悪者っていうように現代では教えられてますが、
でも、そのヒトラーを選んだのは民衆でもあり、
なぜそんな悪者のヒトラーを、民衆は選んじゃったのかってところはポイントですよね。
学校では教えないけど。



ということで、映画を見た後に、下のコメントを読んだら勉強になった。
長いけど。


現代ドイツには、様々な問題がある。
現代にヒトラーを登場させることで根本的な問題を浮き彫りにし、警鐘を鳴らす意欲作。

練り込まれた脚本は、冒頭から本質的な問題を示唆している。
冒頭のヒトラーが「敬礼されない」と嘆くシーンは、ドイツの戦後処理の象徴的問題である。
誰もが知っているであろうナチス式敬礼は、ドイツではタブーとされる。
小学校の頃から生徒が手を上げる際には、ナチス式敬礼に見えないよう人差し指だけを伸ばして
手をあげるように教育されている程だ。
また、ナチス式敬礼は、当時はドイツ式敬礼とも呼ばれていたのだが、今ではその呼称すら
禁句化している。
なぜそうなっているのかを理解するためには、ドイツの戦後処理を理解しなければならない。
 :
 :※ここからドイツの戦後処理解説
 :
ドイツ国は、敗戦により”国家が消滅”し、西側陣営と東側陣営に分割占領された。
そしてすぐに東西それぞれが独立国を建国することになる。
西ドイツ(ドイツ連邦共和国)、東ドイツ(ドイツ民主共和国)とである。
東ドイツは、社会主義国であり「ドイツ国の後継国ではない」との立場を明確にした。
西ドイツは、「非ナチ化終了宣言」を行い、ナチスドイツとは無縁であるとした。
つまり、全ての責任をヒトラーが率いた「ナチスドイツ」に押し付け、自らの国は責任がない
として清算したのだ。

だが、当時のドイツ国民の2割(1400万人)程度がナチス党員や協力者であったし、公務員の
半分以上がナチ党員であった。
そのため、その多くがなんらかの加害経験があった。
※当時はユダヤ人・ポーランド人への迫害が肯定され、ドイツ国民による窃盗・暴行・強姦・
 強盗・横領などが横行していたが黙認されていた。もちろん立件されたものもあるが、
 氷山の一角と言われている。
そうした国民による犯罪は、戦時下にやむを得ず行われた犯罪とされ、1960年には全ての
犯罪が時効とされた。

だが、裁かれなかった国民たちに背徳感や反動からくる強迫観念に苛まされたのであろう。
そのため、「ほら、ナチスとは無縁ですよ」と証明したいがばかりに奇妙な法律が作られた。
かの有名な「民衆扇動罪」である。
特定の人々に対する憎悪を煽動したり尊厳を傷つける行為をした者に適用されるこの法律は、
拡大解釈が続き「手をあげる仕草」までが犯罪とされ、今でも存続している。
本作についても、野外ロケ、ヒトラーのコスプレ、モノマネ、そもそも本作の発表なども
全て犯罪となる恐れがある。
つまり、冒頭の敬礼のくだりはドイツ戦後処理の結果の象徴であり、ドイツ国民に罪はなく
全てがナチスの罪であるとしたことの結果なのである。
ヒトラーが「敬礼をちょっと手を上げるだけに変えたらどう?」と聞き、マナー講師に否定
されるのも、手の挙げ方ではなくヒトラーに対する敬礼=賛美がダメだと言っているので
ある。

この民衆扇動罪の影響は、政治家や新聞・テレビなどのマスコミやタレントなどはもちろん、
一般国民においてさえ、人種・移民に対する批判が一切できない社会風土が醸成される
大きな要因となった。

さらにもう少し補足の必要がある。
現ドイツが認めている過去の対戦の教訓は、あくまでも「ナチス犯罪」であり「戦争犯罪」
ではない。
現ドイツは、「ナチス犯罪」、つまり「ホロコーストを始めとするユダヤ人等への迫害」に
ついては認め謝罪しているが、他国へ侵略行為などの交戦法規違反といった「戦争犯罪」は
否定している。
実は、この点が非常に重要である。
現ドイツは、「戦争犯罪はなかった」という立場であり、「ドイツ国防軍は清廉潔白である」
として1952年に名誉回復し、国防軍として復帰させている。
つまり、他国への侵攻や戦争行為そのものは悪ではなく、戦った全ての兵士が称賛されるべき
としているのだ。こうした認識は、現在も変わらず「ドイツ国民の共通認識」となっている。

そのため、本作中でのヒトラーへの批判は人種差別に関することのみで、「なぜ戦争をはじめた」
「敗戦の責任をとれ」といった戦争責任・犯罪に関する批判がでてこないのは、このためだ。
(仮に日本国内で「帰ってきた東条英機」をやったら、確実に戦争責任の追及になるだろう。)
 :
 :※ここまで解説
 :
戦後のドイツはナチス犯罪を反省した立場であるため、他民族・人種に対する批判を一切公言
できない社会風土が醸成されてしまっている。
本作中に登場するヒトラーと国民の会話シーンは、脚本のないアドリブであるが、ヒトラーが
「ドイツの問題はなんだ?」と聞くと皆一様に「人種・移民問題」を語りはじめる。
本来そうした発言はタブーなのだが、「ヒトラーになら移民問題を本音で話せる」という国民
感情が垣間見えるところが面白く描かれている。

※ヒトラーがクリーニング屋に行くくだりも移民問題の代表例として組み込まれている。
 ドイツのクリーニング業は、そのほとんどが移民労働者でまかなわれている代表的な産業。

そもそも先の大戦以前から、ヒトラーが扇動するずっと前から、ユダヤ人の差別・迫害は
存在していた。
それは、ドイツに限らずヨーロッパ全土のみならず、キリスト教圏すべてでそうであったと
言っても過言ではないかもしれない。
その原因は、宗教問題に起因しており、本作中でも一般国民の口から「原理主義」という
単語が度々でてくることからも問題の根深さが伺える。
ヒトラーはそうした国民感情を利用し、共通の敵を作ることで国民を扇動していっただけだ。
もう少しヒトラー目線で言えば、「国民の声を聴いて実行した」にすぎない。
つまり、本作中のヒトラーが国民の声を聴くシーンは、大戦前と現代が似ていると言いたいが
ための演出だろう。

そして、ヒトラーが国民の声を聴いて回った結果を、本作の肝である公開生放送のテレビ番組
で盛大に発表することになる。一体何を語るのか。
長い沈黙ののちに、持ち前の聴衆の心を捉える演説を始める。
番組スタッフが用意したチープな外国人の揶揄のカンペを茶化し、弱者の貧困、失業、出生率低下
と経済由来の社会問題に焦点をあて、国が奈落に落ちていく状況にあることを国民に諭す。
「私はこのテレビに対し戦いを続ける。奈落を知るためだけではない。その奈落に打ち勝つためだ。
 現在、20時45分。これより反撃を開始する」
人種差別的発言を危惧していた局長は安堵し喝采し、失脚を期待していた副局長は憤慨する。
つまり、ヒトラーは人種差別ではなく、真実を映さないテレビに対して戦いを挑むという演説を
することで人心を掴んだのである。

この演説を皮切りに、他番組、ネットへと拡散し支持を得ていく。
なぜ支持を得たのか。なぜ国民は扇動されるのか。
その答えをヒトラーが最後にこう答えている。
「当時の大衆が扇動されたのではない。計画を明示した指導者を選んだのだ。
 なぜ人々が私に従うか考えたことはあるか?彼らの本質は私と同じだ。
 私からは逃れられん。私は君らの中に存在する。」
ドイツの反省から生み出された歪んだ言論空間は、ただ真実を見えなくしただけだった。
ヒトラーは、ただ国民の声を聴き、明確なビジョンを示す政治家だったのだ。
本作のヒトラー最後の言葉はこうである。
「状況は私に微笑んでいる。ドイツで、ヨーロッパで、世界中で…。機は熟した。」

人種差別がなくともヒトラーは国民を扇動できる。
少し考えればわかることだ。ヒトラーの政策の核は経済政策であり、世界恐慌に苦しむドイツを
救った立役者として民衆は支持をしていったはずだ。
しかし、ドイツは戦後処理を「ユダヤ人迫害」に集約してしまった結果、ヒトラーをただの
「人種差別の象徴」にしてしまった。
そして、制服や敬礼、チョビ髭までを理由なく規制し、人種・移民問題に一般国民ですら批判
できない社会をつくりあげてしまった。現実の問題を直視せず、ただ蓋をする社会。
本作はこうした現代ドイツの根本的な問題を痛烈に批判しているのである。
何の対策にもなってない。いつでもヒトラーは帰ってくると…。

そして、この状況は我が国・日本においても当てはまることが多い。
戦後処理の仕方は違えど、天皇陛下やA級戦犯に戦争責任を押し付け追求する声が根強くあり、
敵を銃で撃てば殺人罪で罪に問われる自衛隊に国防を預け、「憲法を変えると戦争が起きる」
という教典が蔓延し、自国の国旗・国歌がしばしば社会問題になる国、ニッポン。
世界第4位の移民大国でありながら「移民受け入れが少ない」と報じられ、「移民は推進しない」
と言いながら移民政策をとる政府、ヘイトスピーチ規正法が制定され、タレントのちょっとした
発言をメディアから消えるまで叩く。日本国民は奈落が見えていないのか?
本作を振り返り、日本もまた別の形で失敗していることを、よくよく考えていかねばなるまい。


4/14のブン


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